中小企業が銀行融資を確実に受けるための「貸付金」「売掛金」対策ガイド

はじめに
融資の審査では、財務諸表の数字だけでなく、その「内容」が非常に重要です。
私は金融機関で15年以上勤務し、多くの中小企業の資金調達をサポートしてきました。
また、融資を受けながら事業運営を20年以上行ってまいりました。
その経験から、多くの経営者が見落としがちな審査のポイント、特に「貸付金」と「売掛金」の問題について解説します。
1. 貸付金の問題と具体的な対応策
(1) なぜ貸付金が融資審査でマイナス評価されるのか
貸借対照表上の「貸付金」は、融資担当者が真っ先に注目する要注意項目です。
私が融資担当だった時も、貸付金の額が大きい企業には必ず詳細な説明を求めていました。
【具体的な懸念点】
・融資金が事業に使われず外部に流出している可能性
・本業の資金が不足しているにもかかわらず、他に資金を貸し出している矛盾
・貸し倒れリスクが発生している可能性
【実例】
A社(製造業)は3,000万円の運転資金を申し込みましたが、貸借対照表に役員への貸付金が2,500万円計上されていました。
融資担当者はこの点を指摘し「なぜ資金が必要なのに役員に貸し付けているのか」と疑問を持ち、審査が難航しました。
(2) 貸付金対策の具体的方法
① 貸付金の整理と解消方法
【決算前の対応】
・決算月の2〜3ヶ月前から計画的に貸付金を回収する(若しくは少しでも解消する)
・やむを得ない場合は「仮払金」ではなく明確な理由のある勘定科目へ振り替える
【事例】
B社(建設業)は役員貸付金を決算前に全額回収し、その過程と理由(一時的な立替だった点)を資料化。翌期の融資審査ではこの点が評価され、スムーズに承認されました。
② 貸付金が残る場合の説得力ある説明資料
【必須準備資料】
・貸付先との関係性と事業上の必要性を示す説明書
・明確な返済計画表(月次の回収スケジュール)
・金銭消費貸借契約書のコピー
・金利条件(市場金利を下回らない設定が望ましい)
【効果的な説明例】
・この貸付金は取引先の設備投資支援のためのもので、当社製品の販売拡大に直結します。返済は添付のスケジュール通り、年利3%で回収予定です。担保として相手先の不動産に抵当権を設定済みです。
・貸付金については、役員報酬が設立当時に少額で設定してしまい、かつ、決算日までに立替金・仮払金が精算できず、結果として代表者への貸付という形で残ってしまっております。
(前期より、役員報酬を増額し、本来貸付金の返済に充当すべきでしたが、役員報酬の増減が決算期後頻繁に変更できない旨を顧問税理士からも言われ、結果として変更できずこのようになってしまいました。)
なお、来期より役員報酬を増額予定であり、今後貸付金の増額は当然ながら起こさず、また、役員報酬から貸付金の返済に充当し早期に完済する予定としております。
※当期においては、毎月10万円を貸付金の返済に充当し、来期以降は更に(毎月20万円)を返済に充当する予定です。
2. 売掛金の適正管理と資金化促進
(1) 売掛金が与える融資審査への影響
銀行員時代、私は売掛金の「回転期間」を必ずチェックしていました。(「回転期間」は銀行稟議に添付する資料になっています。)
一般的に業種別の平均より大幅に長い場合、次のような疑問を持ちます。
【審査担当者の視点】
・架空売上や回収見込みのない債権が混入している可能性
・債権管理能力の不足を示す兆候
・資金繰り悪化のリスク要因
【業種別の標準的な売掛回転期間】
・製造業:60〜90日程度
・卸売業:30〜60日程度
・小売業:15〜30日程度
・サービス業:30〜45日程度
(2) 売掛金の資金化を促進する実践的な方法
① 早期支払いインセンティブの導入
【成功事例】
C社(卸売業)は「10日以内支払いで2%割引」制度を導入。
売掛金回転期間が70日から42日に短縮され、年間の資金繰りが大幅に改善。銀行からの評価も向上しました。
② 代金回収手段の多様化
・クレジットカード決済の導入(即時入金の実現)
・ファクタリングの戦略的活用(例:大型案件の30%を選択的に利用)
・電子決済の推進(振込手数料の負担軽減策と組み合わせる)
③ 売掛金管理の高度化
【実践ポイント】
・売掛金一覧表の月次作成と分析
・滞留債権(90日超)の回収アクションプラン策定
・得意先別の与信限度額設定と定期見直し
【事例】
D社(機械部品製造)は顧客ごとに与信限度額を設定し、超過時には経営会議での承認を必須とするルールを導入。
結果、売掛金が対売上高比で23%から17%に減少し融資審査でもこの点が高評価を受けました。
(3) 説得力のある売上計上基準の明確化
私が融資審査で必ず確認していたのは、売上計上のタイミングと基準です。
【銀行が評価する売上計上の透明性】
・一貫した基準の明文化(検収基準か出荷基準かなど)
・大型案件の進行基準採用時の根拠資料
・売上・売掛金・現預金の推移に整合性がある説明
【具体的な準備資料】
・業界慣行や会計士のアドバイスに基づく売上計上基準、計上方針を明確化しておくことで融資担当者の疑念を払拭できます。
3. 金融機関との信頼関係構築の実践法
融資判断は単なる財務分析だけでなく、総合的な信頼関係に基づいて行われます。
(1) 定量面での信頼性向上策
【財務諸表の透明性確保】
・注記事項の充実(特に関連当事者取引の明確な開示)
・税理士による財務諸表の確認
・税効果会計や引当金計上の適正化
【資金繰り管理能力のアピール】
・向こう3ヶ月の詳細な資金繰り表の定期提出
・入金・出金の大型案件予定の事前共有
・資金ショートリスクへの対応策説明
(2) 定性面での評価を高める取り組み
【事業の将来性と安定性の示し方】
・業界内でのポジショニング資料の作成
・主要取引先との契約状況の定期的な報告
・競合他社との差別化要因の明確な説明
【E社の成功例】
印刷業のE社は業界全体が縮小傾向にある中で特定分野(医療関連印刷物)への特化戦略を資料化し、銀行に定期的に業績推移と合わせて報告。
結果として業界平均より好条件での融資を継続的に受けることに成功しました。
(3) 日常的なコミュニケーション強化のポイント
【情報開示の姿勢】
・良い情報も悪い情報も適時に共有する
・課題が発生した際の対応策を必ず提示する
・経営方針や事業計画の変更は早めに相談する
【実践テクニック】
・四半期ごとの試算表提出時に、簡潔な業況レポートを添付する
・年に1回、取引銀行向け経営計画説明会を開催する
・担当者との面談は単なる雑談ではなく、議題を設定して臨む
4. 融資成功への具体的アプローチ
(1) 提出書類の質を高める工夫
【審査担当者の目に留まる資料作成】
・エグゼクティブサマリー(資料の要約)を付ける
・グラフや図表を効果的に活用する
・専門用語を避け、わかりやすい表現を心がける
【F社の事例】
機械製造のF社は融資申込時に通常の決算書類に加え「事業の強み・弱み分析」「市場シェアの推移」「主要取引先との契約状況」をA4で1枚にまとめたシートを添付。
融資担当者からは「事業への理解が深まった」と好評でした。
(2) 返済能力の具体的な証明方法
【説得力ある返済財源の提示】
・月次の実際のキャッシュフロー実績表(過去12ヶ月分)
・既存借入金の返済状況一覧(返済予定表は条件変更(リスケジュール)していない証明になります)
・売上・利益の季節変動を考慮した返済計画
【G社の工夫】
季節変動の大きい建材販売のG社は、月ごとの売上変動に合わせた変動返済プランを提案。繁忙期に多く返済し、閑散期は少なめの返済とするスケジュールを提示し、銀行からの理解を得ました。
(3) 資金使途の明確化と効果測定
【具体的な資金計画書の作成ポイント】
・資金使途の内訳を具体的な金額とともに示す
・調達資金による事業効果を数値で予測する
・投資回収計画を月次ベースで作成する
【説得力のある資金使途の例】
「本融資3,000万円のうち1,500万円は夏季賞与支給に、1,000万円は7〜8月の原材料仕入れ増加分に、残り500万円は8月に導入予定の省力化設備の頭金として使用します。
この設備導入により、年間約200万円の人件費削減効果を見込んでいます。」
まとめ:融資成功への5つの鉄則
(1)財務諸表上の「貸付金」と「売掛金」は融資審査の重要チェックポイントです。貸付金は可能な限り解消し、売掛金は適正水準を維持しましょう。
(2)貸付金がある場合は、その必要性と回収計画を明確に示すことが必須です。事業との関連性を論理的に説明できる準備をしておきましょう。
(3)売掛金の回転期間を業界平均値に近づける取り組みを行い数値で示しましょう。債権管理能力は経営力の重要な指標として評価されます。
(4)定量面(財務数値)と定性面(経営者の資質・事業の将来性)の両方をバランスよく伝えることが融資成功のカギです。
(5)金融機関とは「良い時も悪い時も」コミュニケーションを継続し、信頼関係を構築することが長期的な資金調達の基盤となります。
融資は単なるお金の借り入れではなく、金融機関との長期的なパートナーシップ構築の過程です。
上記のポイントを押さえた準備と対応を行うことで、必要な時に必要な資金を調達できる体制を整えましょう。
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