中小企業経営者のための融資審査攻略ガイド~金融機関審査部の視点から見た融資獲得の秘訣~
私は15年以上に渡り金融機関の融資業務に携わってきた経験から、中小企業経営者の皆様に「融資審査の内側」をお伝えしたいと思います。
特に赤字決算や返済遅延がある場合でも、適切な対応策を講じることで融資獲得の可能性は十分にあります。
本稿では、金融機関の審査ロジックを踏まえた実践的なアドバイスをご紹介します。
この記事に関する目次
第1章:金融機関融資審査プロセス
融資審査は複数の段階と多くの担当者の目を通過する必要があります。この流れを理解することが第一歩です。
(1)営業店レベル(一次審査)
– 融資担当者による事前スクリーニング(取引履歴・信用情報の確認)
– 営業担当者による稟議書作成(案件の概要・財務分析・担保評価等)
– 支店長・法人営業課長による一次審査(支店審査会議の実施)
– エリア統括(地区本部)によるレビュー
(2)審査部レベル(二次審査)
– 個別審査担当者による定量・定性分析(財務分析・事業性評価)
– セクター分析担当者による業界動向分析
– 審査役(調査役)による総合判断
– 与信委員会または役員決裁(大口案件の場合)
(3)保証審査レベル(外部保証利用時)
– 信用保証協会による独自審査
– 保証付き融資における金融機関プロパー部分の検証
このプロセスでは、通常40~60項目ものチェックポイントがあり一つでも重大な問題があれば融資承認は困難になる構造です。
審査基準は明確に設定されており、特に「返済能力」と「信用状態」は最重要視されています。
第2章:赤字決算と返済能力の問題 — 審査部視点での評価ロジック
2-1. 金融機関が採用する返済能力評価指標と基準値
多くの金融機関では、以下の財務指標を重視しています:
(1) 債務償還年数
*算出式:有利子負債÷(税引後利益+減価償却費)
【一般的基準値】
– 優良先:5年以内
– 要注意先移行リスク:10年超
– 融資否決リスク:15年超または分母がマイナス
(2) DSCR(債務返済カバー率)
*算出式:(税引後利益+減価償却費)÷年間元利金返済額
【一般的基準値】
– 優良先:1.5倍以上
– 要管理先:1.0~1.2倍
– 融資否決リスク:1.0倍未満
(3) インタレスト・カバレッジ・レシオ
*算出式:(営業利益+受取利息)÷支払利息
【一般的基準値】
– 優良先:3.0倍以上
– 審査注意先:1.0~2.0倍
– 融資否決リスク:1.0倍未満
(4)実務上のポイント
赤字決算の場合、債務償還年数が「計算不能」となるため代替指標として「現預金÷月商」(手元流動性)を重視します。
この値が3ヶ月以上あることが望ましいとされています。
2-2. 不況期における赤字決算評価の内部基準変更
以下のような基準で債務者区分を判断しています。
(1)債務者区分
– 正常先:赤字でも直近の業績が回復傾向であれば維持可能
– 要注意先:2期連続赤字で債務償還年数15年超
– 要管理先:3期連続赤字で元金返済条件緩和実施先
– 破綻懸念先:3期連続赤字で債務超過または実質債務超過状態
【具体例】
税引後赤字10百万円、減価償却費15百万円、年間約定返済額8百万円の企業の場合
– EBITDA(利払前・税引前・償却前利益):5百万円(プラス)
※EBITDAとは、企業の税引前利益に支払利息や減価償却費を加えた利益のことで、企業の収益力を測る指標です。
– DSCR:(△10+15)÷8≒0.63
※DSCRとは、借入金の返済余裕度を表す指標で、元利金返済カバー率とも呼ばれます。不動産投資や企業の資金調達において、返済能力の評価に用いられます。
この場合、返済原資は確保されているものの余裕度が低いため「条件変更」または「一部追加融資+借換」を検討する方向になります。
(2)実務上のポイント
月次試算表が「3ヶ月連続改善」または「直近月黒字」を示していれば年間赤字でも融資可能性が大幅に高まります。
そのため、月次試算表の適切な作成と提出が非常に重要です。
2-3. 経済変動期における赤字決算への対応
多くの金融機関では、景気変動や業界環境の変化による赤字については「一時的要因」と「構造的要因」を区別して評価しています。
下記を説明することで効果的な対応策となります。
特に、具体的な数値と証拠資料に基づく説明が最も説得力があります。抽象的な改善見通しより、実行済みの対策とその効果を示すことが重要です。
(1)具体的な数値資料の提示
①業績推移比較表の作成(過去3年間の主要指標比較)
②月次推移グラフの提示(最低12ヶ月の売上・粗利・営業利益推移)
③資金繰り実績・計画表の提示(直近6ヶ月実績と今後12ヶ月計画)
(2)赤字構造改善計画の具体化
①不採算事業・取引先の整理計画(顧客別・製品別採算分析資料)
②固定費削減計画(項目別削減額と実施時期の明示)
③価格改定・単価アップ戦略(値上げ交渉状況・成功事例)
(3)融資面談での説明ポイント
①「売上減少」の説明ではなく「対策実施状況」を具体的に説明する。
②「コスト削減」の抽象的説明ではなく「削減実績金額」を明示する。
③経営者自身の危機意識と具体的行動変化を示す。
第3章:返済遅延による信用毀損
3-1. 金融機関における延滞管理システムの実態
金融機関では、返済遅延に対して非常に厳格な管理体制を敷いています。
(1)延滞管理の仕組
①早期延滞管理システム:1日の延滞でも基幹システムから自動抽出されます。
②延滞日数別管理表:日数に応じた管理レベルが自動的に格上げされます。
– 1~15日:営業店管理
– 15~30日:エリア本部報告事項
– 30日以上:審査部管理・役員報告事項
③延滞履歴データベース:過去3年間の遅延履歴が蓄積・分析されます。
(2)実務上のポイント
延滞発生時には、営業店長から即日審査部への「延滞発生報告」が義務付けられており特に3,000万円超の大口与信先については週次で役員報告が必要となっています。
そのため、営業担当者は延滞先に対して迅速な改善を求める圧力が非常に強くなり、延滞に対しては敏感ですので注意が必要です。
3-2. 金融機関決算期における延滞管理の厳格化
金融機関の中間期末(9月末)、期末(3月末)前後は、延滞管理が特に厳格化されます。
(1)決算期における金融機関の内部管理上の要請
– リスク管理債権の開示義務:3ヶ月以上延滞債権は区分引下げ
– 不良債権比率への影響:開示不良債権は金融機関の健全性指標に直結
– 引当金計上の増加:延滞の長期化で貸倒引当金の積増しが必要
(2)実務上のポイント
金融機関では、通常、2月・8月に「決算対策会議」が開催され延滞債権の正常化目標が各営業店に割り当てられます。
この時期の新規融資審査においては、既存取引先の延滞状況が特に重視されますので、返済遅延は絶対に避けるべきです。
3-3. 返済遅延を防止するための実務的対策
(1)返済遅延防止のための資金管理対策
– 複数行の返済日調整:返済日を分散させる交渉
– 返済日警報システム:経理システムへの返済期日アラート機能導入
– 月次資金繰り表の精緻化:日次レベルでの資金過不足予測
(2)万一の延滞発生時の対応手順
①即日連絡の原則:延滞発生前または当日朝までに担当者へ連絡
②具体的入金日の明示:「近日中」ではなく「◯月◯日15時までに」と明確化
③証跡資料の提出:入金遅延の原因となる取引先からの支払遅延証明等
④経営トップからの連絡:支店長・審査役レベルへの経営者自らの説明
(3)実務上のポイント
銀行は「後手の対応」より「先手の相談」を高く評価します。
返済遅延が発生してからの相談よりも発生前の事前相談は格段に印象が良く支援姿勢も積極的になります。
特に業績悪化時には四半期ごとの面談を自主的に申し入れることが効果的です。
第4章:融資審査合格のための戦略的アプローチ
4-1. 金融機関審査部の評価ロジックの本質
融資評価で重視する要素の配分は概ね以下の通りです。
特に「財務の健全性」と「返済履歴」が最低限のハードルとなります。
(1)定量分析(財務評価):60%
– 収益性(営業利益率、ROA等)
– 安全性(自己資本比率、流動比率等)
– 返済能力(DSCR、債務償還年数)
(2)定性分析(事業性評価):30%
– 経営者の資質・経験
– ビジネスモデルの持続可能性
– 市場ポジション・競争優位性
(3)取引関係評価:10%
– 過去の返済履歴
– メインバンク取引状況
– 情報開示の透明性・適時性
4-2. 赤字決算・返済遅延企業の融資獲得戦略
赤字決算または返済遅延の履歴がある企業が融資を獲得するためには、基本的には「4C対策」が効果的です。
(1)Compensation(補完)戦略
– 財務上の弱点を他の強みで補完する
– 経営者の個人資産提供(担保・保証)
– 業績回復の客観的根拠提示(受注残高増加等)
(2)Communication(対話)戦略
– 金融機関との情報共有を強化する
– 毎月の試算表・資金繰り表の定期提出
– 四半期ごとの経営状況報告会の実施
(3)Control(管理)戦略
– 経営改善に向けた内部管理体制強化をアピールする
– 外部専門家(税理士・中小企業診断士等)の関与を得る
– 管理会計システムの導入で数値管理の精度を高める
– コスト削減・生産性向上施策を数値化して説明する
(4)Commitment(約束)戦略
– 経営者自身の責任ある行動を示す
– 役員報酬の削減を実行する
– 私財提供による資本増強を行う
– 経費削減を率先垂範する姿勢を示す
(5)自己努力の証明
①赤字決算企業の場合:「経営者による私財出捐(増資・DES)」
②返済遅延企業の場合:「返済原資確保のための資産売却・経費削減」
③両方の問題を抱える企業:「第三者による事業評価・経営改善計画策定」
4-3. 融資申込前の事前準備と審査通過のためのチェックリスト
(1)融資申込前の自己診断項目
融資申込の前に、以下の項目について自社評価を行い対策を講じることをお勧めします。
①財務健全性指標:DSCR、債務償還年数、自己資本比率は基準値をクリアしているか?
②資金繰り状況:手元流動性、入金予定、支払予定の3ヶ月見通しは安定しているか?
③事業計画の実現可能性:売上・利益計画の根拠は客観的か、市場環境と整合しているか?
④担保・保証の提供可能性:追加担保や保証人の検討は行ったか?
⑤取引状況:メインバンク取引、信用保証協会利用状況は適切か?
(2)融資審査通過のための提出書類準備リスト
①基本書類
– 決算書(過去3期分)と勘定科目明細
– 試算表(直近月まで)
– 資金繰り表(実績と今後12ヶ月計画)
– 金融機関取引状況表
– 商業登記簿謄本・定款
②審査評価向上書類
– 経営改善計画書(具体的数値目標と達成手段)
– 事業計画書(成長戦略と投資計画)
– 返済シミュレーション表
– 業界動向分析資料
– 主要取引先リスト(販売先・仕入先)
③補完書類(赤字決算・返済遅延がある場合)
– 赤字要因分析と改善策資料
– 月次試算表の改善推移グラフ
– 資産売却計画書(遊休資産等)
– 固定費削減計画と実績
– 借入金返済計画書(全行まとめ)
特に③の補完書類が整っている企業に対しては、「経営管理能力が高い」「情報開示に積極的」という好印象を持ちます。
金融機関との間で信頼性が確保されていれば、基本的には、問題を隠さず、対策を明示する姿勢が高く評価される傾向が強いです。
まとめ:融資審査の本質と長期的関係構築
本稿では、金融機関審査部の内部ロジックから見た「赤字決算」と「返済遅延」の評価プロセスと対策について詳述しました。
これらの問題は、融資審査における最重要評価項目ですが、適切な対応策を講じることで乗り越えることは十分に可能です。
業績悪化時にこそ金融機関との対話を重視し、共に解決策を模索する姿勢を大切にしています。
金融機関は単に問題点を指摘するだけではなく「事業の持続可能性」と「経営者の誠実性・実行力」を総合的に評価しています。
特に重視されるのは、問題発生後の対応ではなく問題を予測し事前に対策を講じる姿勢です。
金融機関との関係は単なる融資取引ではなく、企業の成長と存続のための長期的パートナーシップです。
財務上の問題が発生した際こそ、透明性のある情報開示と誠実なコミュニケーションが最も重要となります。
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